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『書物』のリレーエッセイ(第13回)

私の読書 / 佐藤 芳德(学長)
()内の肩書・所属は掲載当時のものです

読書のために本を選択する場合、その方法は大きく二つに分かれる。一つは図書館や書店で実際に本を見て選択する場合、もう一つは推薦、紹介などである。適当な本が見つからないときは、後者に依ることが多い。学生の皆さんに相応しい本を推薦したいのですが、自分の読書歴を振り返ることでご容赦願いたい。

小学生の頃は、もっぱらマンガであった。もちろん夏休みや冬休みの課題図書の「坊っちゃん」、「クリスマス・キャロル」くらいは読んでいたが、マンガばかり読んでいた。しかし、当時のマンガは、手塚治虫などストーリー性の高いものが多く、様々な蘊蓄(うんちく)もちりばめられていた。例えば、ドップラー効果やコリオリの力の存在を初めて知ったのもマンガからである。

中学生になって、「雪国」、「蜘蛛の糸」、「車輪の下」などの定番、少し背伸びして武者小路実篤「人生論」などを読んだ。はっきりした自覚はないが、この頃の読書が自分の考え方の礎になっている気がする。高校生のころ読んだ本で記憶に残っているのは、「ロウソクの科学」、「山月記」くらいで短編しか読めなかった。

大学生になって時間にゆとりができて、長編、推理小説、各種啓発書、専門書、古典などを読むようになった。読書の時間の約8割は、専門書に費やした。専門書の中には、何回も、何10回も読み返した本もある。長編は途中で断念したものが多い。無理に最後まで読み通すまでもなく、つまらないものはつまらないと感じた。もしかすると、ずいぶん損をしたかもしれない。推理小説は、読み比べると構成の優劣がよく分かる。著名な推理小説は、楽しみながら論理構成力が身につくと思う。異色のところでは、中田祝夫・竹岡正夫「あゆひ抄新注」は、とても興味深かった。

大学時代の読書として、ぜひ勧めたいのは、古典すなわち「徒然草」、「方丈記」、「論語」、「老子」、「孫子」などを1回は読んでおくことである。おそらく一読だけでは内容の深い理解は難しいと思う。しかし、読んでおくのとおかないのとでは大違いである。例えば「孫子」は兵法の書物であり、近年様々な解説書が出てブームとなっている。大学生の時は、全く理解できなかった。しかし、40年間で部分的にせよ何回も読み返すことによって、多くの場面で応用できるようになった。古典は、折々に読み返すことにより、自分の成長を実感でき、その内容をより深く理解できるようになる。わからないままに読んでみることも重要である。大人になってそれなりに経験を積んだ今でも、深い内容を理解できていないのかなと感じる「雪国」のような作品もある。

もしあえて推薦書を3つ挙げるとすれば、幸田露伴「五重塔」なだいなだ「権威と権力」、浅田次郎「鉄道員(ぽっぽや)」です。(2015.12.9)


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