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『書物』のリレーエッセイ(第16回)

私の読書遍歴 / 天野 和孝(副学長)

私の読書遍歴は全く脈絡のないものである。ただ、その時々で、好きな作家がいた。中学生の時には、SFファンでアイザック・アシモフの「宇宙の小石」やネビル・シュートの「渚にて」が特に記憶に残っている。いずれも、地球で核戦争が起こることが想定されたものである。また、「宇宙の小石」の中で、ブラウニングの詩の一節が紹介され、「我と共に永らえむ。最良の日が未だ来らねば」と迷?訳されていた。後に、原文が「ラビ・ベンエズラ」の一節 "Grow old along with me! The best is yet to be, ”のことだと知った。いまだに記憶にあるのだから、SFとて侮れないのである。

高校時代には、人生のことを考えさせるようなロシア文学に夢中になり、ドフトエフスキーの「罪と罰」やトルストイの「戦争と平和」が特に印象に残っている。原文で読みたいという無謀な野望をいだき、大学ではロシア語を選択した。その野望は途中で挫折したが、現在ロシア語の論文を読むのに役立っているのだから、ドフトエフスキーやトルストイのおかげともいえる。

大学時代には、もともとの歴史好きが高じて、司馬遼太郎の小説を読みあさった。特に、「坂の上の雲」は明治期の活気ある日本を正岡子規、秋山兄弟の目を通して、描写したもので、元気になれる小説である。司馬遼太郎の小説をあらかた読み尽くした頃、三浦綾子の小説に出会った。

三浦綾子の小説の中で有名なのは「氷点」である。テレビの笑点がこの小説に由来することは最近知った。彼女は北海道の人で「天北原野」、「泥流地帯」など地元のことを題材にした小説が多いのだが、その中で、最も好きな小説は「塩狩峠」である。これは、一人の青年が結納のため札幌に向かう途中で、塩狩峠で起きた列車事故を防ぐためレールに飛び降りて犠牲になり、多くの人の命を救ったという実話にもとづく物語である。また、自叙伝「石ころの唄」で彼女の国民学校の教員時代のことが書かれているが、この経験をもとにした遺作「銃口」は、戦前という時代の波に流されて、もがきながらも教員を目指す青年を見事に描き出している。

最近は、池井戸潤の半沢直樹シリーズ、「下町ロケット」、「民王」、ジェフリー・アーチャーのクリフトン年代記シリーズなどを愛読している。ある作家が好きになると、読み尽くす癖は一生直らないし、脈絡のない読書遍歴はこれからも続いていくと思われる。(2016.10.7)


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